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執筆者の写真kimilab

WWGF飯間浩明トークショー「国語辞典はゲームだ」レポート

更新日:2019年10月13日

2019年10月6日にパリオ町田で開催された、第1回「WORLD WORD GAME FESTIVAL」(以下、WWGF)に参加してまいりました。

「図書館たほいや実行委員会」としてのおめあてはもちろん(!)国語辞典編纂者・言語学者である飯間浩明先生によるスペシャルトークショー「国語辞典はゲームだ」!


立ち見が出るほどたくさんの方がいらっしゃる中、午前中から整理券をゲットして、はじめから最後までガッツリ、トークショーを堪能してまいりました。

現在、こちらのトークイベントについての動画がYoutube上にアップされています。


すでに動画でトークの内容は見られるのですが、「トークではどんなことが話されたのか、ザッと知りたい!」という方のために、飯間先生とピグフォン・フジワラさんによるトークの内容のメモを公開いたします。


1時間のトークショーは、前半と後半の2部にわかれていました。

前半は、飯間先生によるトーク「国語辞典はゲームだ」(第Ⅰ部)、そして後半は、飯間先生とフジワラさんによる対談「何がうまれる?国語辞典×ワードゲーム」(第Ⅱ部)です。


第Ⅰ部 「国語辞典はゲームだ」(飯間浩明)


トークの内容は、3つに分かれていました。


(1)言葉を集めるゲームとしての辞書づくり:

   辞書をつくる仕事は、言葉を集めるというひとつゲームである!

(2)言葉の説明をするゲームとしての辞書づくり:

   辞書をつくる仕事は、言葉をいかに人にわかるように説明するか、という頭脳ゲームでもある!

(3)辞書を使ったゲーム:

辞書を使って遊ぶゲームは「たほいや」だけではない!飯間先生たちが開発してきたいろいろな辞書ゲームの紹介



(1)言葉を集めるゲームとしての辞書づくり


「用例採集」という活動①~「マスオさん」

・辞書をつくる仕事は、日々、言葉を集めることがなくてはならない仕事。

・「用例採集」:実際に用いられた例=「用例」。言葉が実際に用いられた例を昆虫採集のように「採集」する。

→集めるべき言葉というのが、あらゆるところに転がっている。それは新聞を読む、テレビを見る、インターネットを見ていると、辞書に載せなければならない言葉が目に飛び込んでくる。それを見過ごしてはダメなので、ぱっとつかまえて、パソコンのデータベースに入れる。これが毎日の仕事である。

・最近の例でいうと、自分のツイッターを見たひとはわかるかもしれないが「マスオさん」が最近使われているか、とういことが問題になった。

・「マスオさん」はバブルの頃に一般化した言葉である。「マスオさん」はお嫁さんの実家に同居している『サザエさん』のキャラクター「マスオさん」にちなんで、バブルの頃に「マスオさん」に入れるようになった。

・「マスオさん」は、自分にとってはなじみ深い言葉だが、最近の人はこのような用例としての「マスオさん」を知らないらしい。

・三省堂国語辞典では「マスオさん」が載っているが、これはすでにバブル時代の言葉で、現代語ではないのではないか、ということで「削ろうか」という話になる。

・しかし、ツイッターで「いやいや、この前ドラマのセリフの中に出てきた」という声があった。『偽装離婚』というドラマの中で「マスオさん」というセリフを言っていた。現代の人気ドラマの中に出てきたとなると、やはり現代語であるという話になる。

・しかし自分はそのドラマは見ていなかった。そのため、Huluに加入して『偽装離婚』を見てみた。そうしたところ、谷原章介が妻の実家に同居している役を演じており、「マスオさんしてるんだから」というセリフがたしかにあった。ここでは、「マスオさんしてる」という動詞として使われている。

・これが今年の8月であれば、現代語だから辞書から削らなくてよいという話になった

・このようにある言葉があるかどうか、ということが、辞書に載せるかどうかにとって死活的な問題になっている。


「用例採集」という活動⓶~「はだはだ

・小説を読んでいても、謎の言葉によく遭遇する。

・『白い巨塔』を読んでみると、新しい言葉にたくさん遭遇する。

・医療関係の言葉がたくさんでてくるが、その中に「はだはだで、冷ややかな空気が流れた」という言葉があった。

・いろいろ調べてみると、「はだはだ」というのは関西方言であって、微妙な空気が漂うこと、相手との間に食い違いのような空気が流れたということを意味している。このように描写されている部分がある(Weblio辞書「はだはだ」)

・このような奇妙な言葉を見ると、大喜びで採集して、パソコンのデータベースに入れている。このようなことを10年以上続けている。


「用例、ゲットだぜ!」~『ポケモンGO』のようなゲームとしての用例採集

・言葉を採集することがゲームのように面白くなってしまう

・『ポケモンGO』ではモンスターをいくつ集めれば点数がもらえるが、これと同じことをやっている感じがする。

・「マスオさん」をひとつみつけるとポイントがたかい。「レアメタ」をゲットした感じ。

・「はだはだ」が有名小説の中に出てきたりすると、「おお、こういう言葉が出てきた」とゲットする感じ。これこそ、ゲームではないか。


(2)言葉の説明をするゲームとしての辞書づくり

・辞書づくりはそれでは終わらない

・2万以上の新しい言葉を集めてきても、それをすべて辞書に入れるわけにいかないので、辞書に入れるべきものを選び出す。

・そうすると、選び出した言葉について説明を書かなければならない。

・ある言葉の説明を書くというのは、なかなかできないものだ。ユーザーにわかるように説明するというのがなかなか大変である。

・「ボール」はよく使う言葉であるが書けるだろうと思っていると、なかなかかけない。「ボールを投げる」といったときに「ボール」を「投げる」とは何か、と考えだすとよくわからなくなってしまう。

・「投げる」とは何か、説明してみようと思うとなかなか難しい。実際の辞書がどのように書いてあるかとみると、最近改訂版が出た

→『大辞林』では「物を手に持って遠くへ飛ばす。ほうる。 」と書いてある。別に遠くでなくても良いような気がするが、『大辞林』ではそう考えている。

→『新明解』では「投げる」は「手にもっているものを離れた位置にうつそうとして、はずみをつけて、無造作に投げるようにして、手元から放つ」(レポーター未確認)と書いてある。ちょっと長い。

→ことほど左様に、当たり前の言葉を説明するのが難しい。


・説明するときにいろいろな例を考えて説明を書くが、説明の対象が食べ物であったりすると、実際にそれを食べてみないと味がわからなかったりする。

・「ハーブ」の説明を書いたが、その説明を書くためにいろいろ食べてみた。「カルダモン(cardamom)」というハーブについて「緑色」と書いたら、「緑色ではないのではないか」と議論が起こった。実物を前にして、議論をすることになる。「緑色ではない」といった彼は、黄色のカルダモンをもっているが、こちらは緑色のカルダモンを持っている(笑)

・最終的には、「実はホシブトウくらいの大きさで、緑などの色」と書いた。

・そのように、真実に近づこうとする。これこそゲームではないだろうか。言葉の説明を書く作業は、本当に面白い。



(3)辞書を使ったゲーム

・ゲーム論になってきているが、実際に、辞書を使ったゲームもできる。

・多くの人が知っているのは、「たほいや」であろう。

・「たほいや」は『広辞苑』を使ったゲームである。『広辞苑』には普段我々がつかわないような、変な言葉がいろいろ載っている。それを活用したゲームである。

→ゲームでは、みんなが知らないような言葉を出題して、「たほいやとは何か?」をみんなで考えて、みんなで「こうじゃないかな?」という意味を考えて「親」にわたす。「親」はそれを混ぜて、「この中に正解がひとつあります。どれでしょう?」といって出題する。

→ある人は、ふざけたこと、パッと思いついたことを書く。正解をひとつだけ混ぜて、あとは嘘っぱち。その中で正解を当てていくゲーム。

→これが1990年代に、テレビで取り上げられて人気を博した。

・しかし辞書は、「たほいや」でしか遊べないのだろうか?そう思って、辞書好きの人とゲームを開発した。


①ズッキーニ(参考:西村まさゆき氏Twitterより

・辞書をひとつ用意して、そのある項目の説明だけを読む。例)「かぼちゃの一種。実のかたちはキュウリに似ている」など

・説明を読んで、それが何であるかを「当てっこ」したあとに、正解をいう。


・国語辞典には、項目の中にたくさんの意味をもっているものがある。

・多いものになると10~20の意味をもつ言葉も少なくない。

・例えば、ある言葉の26番目の意味を読むと、「範囲とする。わたる。」とある。この言葉は何か。もう少し若い意味は「かけことばにする」とある。「ある数をかけられた回数だけ足す」。これは動詞の「かける」である。

・後ろの方の意味から読んでいって、その動詞を当てるというゲームである


③年号でボン!

・辞書には、例文に西暦が記載されていることがあるので、それを利用したゲーム

・西暦をいって、その西暦に近い例文を挙げるというゲーム。

・例えば、親が「1884年」という。1884年に近いゲームを見つける。明治の頃に使われはじめた言葉を当てる。たとえば「アイスクリーム」が明治の頃に使われたのではないか、と考えて「アイスクリーム」に1票入れる。「アイスクリーム」のはじめの文例は1880年代なのでそういう人には点数を与える。そういうゲーム。


・辞書を使ったゲームを、新作を毎回考えて、それを紹介することを行っている。そろそろアイデアもなくなってきつつあるので、フジワラさんにいろいろ教えてもらいたいと思う。



2.何が生まれる?国語辞典×ワードゲーム


① どうなってる?最近の国語辞典の周辺


(飯間)今ほど、国語辞典にエンターテイメント性が求められている時代はない。いったいどのくらいの人たちが、辞書を手元に置いてくださっているのか。

自分は、Googleでの検索では十分な情報提供ができないと考えているが、しかしそれで充分だと考えると「国語辞典いらないんじゃないか」とみんなが思ってしまっても仕方がない。

『大辞林』『新明解』と『三省堂』それぞれの辞書の違いがあって面白いとは思うが、「そんな違いはなくてもいいんじゃないか」と言われても仕方がない


(フジワラ) 辞書はAIで作れるんじゃないの?と思っている人たちもいる


(飯間)AIで作れるかもしれないという時代にはなってきているが、アナログはまだ必要だろうとは思っている。それでも辞書って人工知能が作っているのでは、と思っていることもある。


(飯間)ゲームで辞書的な要素を取り入れてもらうことで、ユーザーに辞書を身近に感じてもらう。そういうアイデアはないのか。

辞書というのは、あれだけのひとつの小さな本のなかに8万語が入っている。その8万語をうまく使えば、面白いゲームが作れるのではないか。

実際、コンピューターゲームで辞書を活用したものもある。自分が知っているのは、共闘ことばRPG『コトダマン』。画面上に文字が表れて、意味のある言葉を創ることができればその画面はクリア。ステージが上がれば得点がもらえるというゲーム。

他のバリエーションもあって「モジポップン~100の海と情熱の大陸~」(現在は、配信終了)というのゲームあり、それは画面上に出てきた言葉を、文字を使って、大辞林にある言葉が作れればその画面はクリア。ここで『大辞林』という辞書が絡んでいる。「『大辞林』だったら載っているんじゃないか」という推測を働かせながら進めていくゲーム。

そういう人を夢中にさせる要素が辞書にはあるのではないか。


⓶ 最近のアナログゲーム周辺


(フジワラ)

・ドイツのマーケット:見渡す限りボードゲームが積まれている

・ドイツでは年間数百タイトルの新作。展示会イベントに17万人が集まる

・なぜこんなにアナログゲームは盛り上がるのか?

・一方、日本では、東日本大震災を契機に、ゲーム販売数、即売イベント、ゲームカフェの参加者数・利用率がアップしている。人間同士が集まって、何かを一緒に楽しむということの意味が再確認されているのではないか。

・ゲームカフェも増え、いろいろな人たちが集まってアナログゲームを遊べるような場も増えてきている。ゲームカフェにいってみると、人同士がつながりあって、知らない人同士が仲良くなっている。


③ ピグフォン『コレハヤ辞典』の紹介(フジワラ)


・『コレハヤ辞典』:辞書の編者をプレイできるゲーム。オノマトペを作る。

・自分自身が辞書の作者になってしまおう、というゲーム

・集まった人たちで講評して「これは良い」「これは悪い」と言い合う。

・辞書原稿の「意味」だけが残っている状態から、オノマトペを当てる。


④ ワードゲームのネタとしての国語辞典の特徴(フジワラ)


1.収録されている言葉が膨大

2.現在に則した言葉と語釈

3.あいうえお順に並んでいる

4.最近はアプリも充実

5.ページが多く、重い


(飯間)「2.」について。改訂版があることに意味が変わっていることにゲーム性があるのでないか、ということか。


(飯間)「4.」について。アプリがあることで、アプリをゲームに利用しやろうということか。


(飯間)「5.について」デメリットを逆に、ゲームとして利用しようということか。


⑤ 新たな辞書ゲーム『ガイドブック 謎解き三国旅行:国語辞典はゲームだ(第7版)』の提案


(フジワラ)

・なかなか漠然とした話だけでは見えにくいと思うので、ピグフォンで考えてみた。

『ガイドブック 謎解き三国旅行:国語辞典はゲームだ(第7版)』

・辞書がなければ遊べない、辞書があるからこそ面白いこともできるのではないか、と思った。ガイドブック形式としてゲーム化することを考えた。

・『三省堂国語辞典』に、『ガイドブック』ゲームがセットでついてくるような形式。辞書がないと遊べない、辞書を買わないと遊べないゲームですよ、ということ。

・三省堂乞うk語辞典の中を遊びながら旅するガイドブックするゲーム


・ゲーム例「おじさんを探せ」(三国のどこかに隠居している演奏家たちに会いにいこう)




(飯間)挿絵そのものをモンスターにしようということか。


(フジワラ)楽器を頼りに演奏おじさん100%コンプリートできるかな?というゲーム。


(飯間)テレビゲームだと、誰かと友達になると何点、あの人にあったら何点というのがあるが、そのような感じですね。今はわかりやすく、絵のあるところだったが、これが言葉になっても良いわけか。


(フジワラ)探すと同時にページ数を入れていって、コンプリートしていくというゲーム。いくつかそのようなアイディアを考えた。


(フジワラ)他にも、「概念を訪ねる旅…」が考えられる。


(飯間)大変抽象的な旅だ(笑)


(フジワラ)例えばこのようなヒントで「旅」を行う:「彼はドーナツの前でこういった。「ドーナツが好物なのはおいしいからだ」「なぜ好物かといえば美味しいからだ」」

(レポーターによる解説:『三省堂国語辞書』のドーナツの直前には、「トートロジー」の語義が掲載されている。)これが、辞書をランダムに開いていくきっかけになるのではないか。


(飯間)自分は言葉の世界だと思っている。その世界のミニチュアを作るのが辞書の仕事である。そのミニチュアの中を訪れていって、いろいろな発見をしていってもらえれば、楽しいゲームができるのではないか。


(フジワラ)今、なんでも情報が飛び込んできてしまう時代である。その中で、自分から情報に飛び込んでいく、つかみとっていく。そのことで、実感が得られるという経験ができるのではないか。


(フジワラ)他にも、「誰もが知るのに未踏の地=誰もが使う言葉だが、めったに足を踏み入れない場所にこそ発見があるものだ」。たとえば、「右」の定義は、辞書によってだいぶ異なってる。それぞれの辞書で当たり前の言葉がどのように書かれているか。それを見て面白がってほしい。


(飯間)フジワラさんは、これからも辞書ゲームを作っていくのか。

(フジワラ)そのつもりである。

(飯間)今、ご紹介いただいたものもぜひボードゲームにしてほしい。


(10/13追記)10/13に、トークイベントの動画がアップされたため、ブログ上で動画を紹介するとともに、文章を一部変更しました。

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