2020年2月24日、東京カルチャーカルチャーで開催された「国語辞典ナイト12~辞書はゲームだ!」に行ってきました。
この日は、満員御礼!で、チケットを入手できなかった方もいらっしゃるということで、急遽、イベントの様子がYoutubeで配信されることになりました。そのような次第で、しばらく、こちらから動画も見られるようなのですが、それとは別に、当日のイベント・レポートをしたいと思います!
まずは前編! 三省堂国語辞典編纂者の飯間浩明さんによるプレゼンテーションと、ピグフォン・フジワラカイさんによるトークの様子をお届けします。
開始直後、飯間浩明さんより、三省堂国語辞典の野球チーム仕様シリーズについての宣伝(?)が今年3月に『三省堂国語辞典 第七版 福岡ソフトバンクホークス仕様』(三省堂)が発売される(!)ことの予告が行われたのち、即座に「ホークス版にも期待もしてもらいたいが、今日したい話は、「辞書はゲームだ」という話!」ということで、飯間先生のプレゼンが始まりました。
1 国語辞典はゲームだ!~ゲーミフィケーション講義~
・今年2月に、今野真二『『広辞苑』をよむ』の書評を執筆した(「辞書という小宇宙 評:飯間浩明」読売新聞オンライン)。その冒頭に次のような文章がある。
「国語辞典が売れない時代です。昔は100万部以上を売り上げる辞書もあったけれど、今や、部数も積極的には公表しにくい状況です。
「辞書は紙がいいか、電子がいいか」とよく議論されますが、実際は、どちらもあまり売れません。今、辞書の作り手をおびやかすのはネットの検索サイトです。ググれば無料で辞書の説明が出てきます。」(「辞書という小宇宙 評:飯間浩明」読売新聞オンライン)
・なぜ辞書が売れないのか? それは辞書が勉強道具だからだ!勉強道具が爆発的に売れることはあるだろうか?
・どちらかというと、人は勉強したくない。「これがあると勉強できる」というものは爆発的には売れない
・我々は勉強したいわけではない、遊びたいのだ!「遊ぶ」ためのものは爆発的に売れる。遊ぶものを売ったほうが良い
・そこで考え方を変えて、「ゲーム」を売るようにしようという話になった
(1)すぐれたゲームは人をやみつきにする
・ゲームのおもしろさを辞書が取り入れないと、売れない
・今後、国語時点はゲームにならなければ売れないであろう
(2)ゲーミフィケーション
・ゲーミフィケーションとは、行動を遊び(game)にすること。
・すでにビジネスの世界では、「ゲームの力」の活用が行われている。(『ウォートンスクール ゲーミフィケーション集中講義』)
・ビジネスの世界だけではなく、「いやだな」と思うことをゲームにすれば、やりたくなる
・たとえばゲーミフィケーションには、次のような例がある:
①ゲーミフィケーションの例1:スウェーデン「ヒューと音の出るゴミ箱」
② ゲーミフィケーションの例2:スウェーデン「ピアノ階段」
③ ゲーミフィケーションの例3:『うんこかん字ドリル』:子どもが好きなものと結びつけて、漢字を書くのも遊びにしてしまった事例で、これも一種のゲーミフィケーションといえるのではないか。
「国語時点がうんこの真似なんかできるかクソ!」といった、こういう考え方ではダメ!
(3)辞書とゲーム
・深谷圭助「辞書引き学習」:付箋をどんどん増やしていく学習活動で、調べた言葉に付箋をつけて、付箋がポイントのように増えていく。これも一種のゲーミフィケーションと言えるのではないか。
→ITmedia「市場は縮小しているのに、なぜトラとコイの国語時点は好調なのか」(土肥, 2019-05-15)
→本書独自に書き下ろされた熱量あふれるオリジナル用例はカープファン必見!
→例文を探すのがゲームとして面白い!:例)選手探しゲーム、カープ探しゲーム
(4)スマホゲームにしてしまったらいいのではないか?
・そもそも辞書はスマホと相性がよい
①「広辞苑たほいや」:『広辞苑』ならネットで「たほいや」ができる
・ネットを通じて、いろいろな人が語釈を考える。SNSを通じて、「たほいや」を興じる
・岩波書店はこれができるリソースをもっているので、やろうと思えばできるはず
②「ズッキーニ」:小型辞書は「ズッキーニ」標準装備
・『広辞苑』は、難しい言葉ががたくさんはいっていて、「ズッキーニ」がやりにくい。小型辞書ならではの良さを
・「選択辞書一覧」から、それぞれの小型辞書を選び、ネットで対戦する
・リーダーボードに名前を掲載し、ランキングを競う。
(5)まとめ
・ゲームの中毒性を利用して、「習慣性」「中毒性」「足抜け不可能性」をもった辞書ゲームが待たれる
・辞書が勉強道具である時代は終わった。これからの時代、辞書はadictiveなゲームである
・こんな提言をすると、ゲーム会社などにアイデアをもっていかねるのではないか。ただし大手のゲーム会社はリソースをもっていないはずである。
・結論:先をこされるな!
・ここはやはりこれまでの辞書のリソースが生かされるかたちで辞書アプリをお願いしたい
・辞書をゲームにしましょう!むしろ辞書はゲームなのです!
2 フジワラカイ(ピグフォン):辞書とゲームのコンタクトゾーン
(1)フジワラカイさん(ピグフォン)の紹介
・1968年 広島県尾道市生まれ
・2008年ボードゲーム制作を開始し、翌年「ピグフォン」を設立
・近年「コレハヤ辞典」「クロスワイルド」などの辞書ゲーム、言葉ゲームを制作
(2)「コレハヤ辞典」の紹介
・みんなで新語をつくりあげっていっちゃうゲーム
① ことばを創る
- 2拍を2回繰り返す新語を創作
- できあがったら相手チームに渡す
② 崩れたことばを直す
- 相手チームの使ったひらがなを使って、正しく復元できればポイントゲット
③選考、そして・・・
- 全員の新語から大賞にふさわしい語を選ぶ
- さらに歴代大賞との対決、辞典の更新、実際の使用
- これからはやる流行語に!
(飯間)実際にオノマトペ辞典を創っているような気分になれる、そんなゲーム。
フジワラさんは、ゲームについて昔から取り組んでいて、なぜ、ことばに注目したのか?
(カイ)デジタルが好きだったが、突然、デジタル疲れをして、アナログ・ゲームにはまっていった。ヨーロッパから出ているものに面白いものがあることに気づき、先鋭化していく中で専門的なものが増えていくなかで、言語はみんなが使っているものであることに気づいた。
みんなが使っている言語に、ちょっとしたルールを入れることで、その人の「人となり」がわかったりするものになったりしたらいいんじゃないかと気づいた。
(飯間)身近で誰でも使えるもの、と考えた結果、ことばになったということか。人数は多い方がいいのか。
(フジワラ)たくさんで遊んでもらった方が楽しい。
実はこれまでも大喜利系ゲームは創っていた。だが、作者のお題があってみんなが答える大喜利系のゲームだと、作者のセンスが影響を与えてしまう。
「コレハヤ辞典」については「お題」はない。ある種、無茶ぶりというか、みんなの頭でひねり出してもらう仕組みである。「お題」がないので、みんながそれぞれに考え、お互いに発見があり、楽しめる。
実は自分もたくさんの人に遊んでもらう中で気づいたことがたくさんある。「コレハヤ辞典」で遊んでもらう中で、「この人は、こんな感覚で遊んでくれたのか」という発見があった。
(飯間)新しく創ったオノマトペなんて、新しいものができるのか?という疑問がわくが、「ぽじゅぽじゅ」(スポンジをしぼる音)など、たまたま思い浮かんだときに、相手がそれを探り当てれば正解ということになる。
(フジワラ)今回、アナログゲームと辞書との親和性についてまとめてみた。
(フジワラ)
辞書は、世界を表したもの。世界がひとつの辞書の中に折り畳まれている。あまりに多すぎて何がどこにあるのかがわからない。それを世界に見立てている。
(飯間)ゲームを通じて、辞書の宇宙を感じてほしいということか。
(フジワラ)そのとおりである。
真ん中のところに入れているのが、パッとみんなの意識にのぼる言葉。そういものは、自分で辞書にたどり着くことができる。しかし、実はそういうものというのは全体の数%にすぎないでのはないか。はっきりいって、8万語すべてにはたどり着けない。
「辞書を使おう」となったときに、たどり着けることばは本当に少ない。それを逆手にとれることはできないか、と考えた。
「類義語・対義語」なんかは、そこから派生して、自分の知らないことばまで行ける。もうひとつ注目しているのは「同音異義語」。
あとは「掲載位置」がゲームとして活用できそうだ。偶然となりあうもの、上下のものが特別な意味をもった状況が生まれる。そういう偶然性、たまたまの偶然の一致、たまたま隣あったもの、上下のもの、そういう「珍スポット」に連れていくということがある。
今回の新作ゲーム『ドーオンとイギーゴ物語』では、同音異義語に着目している。
(飯間)フジワラさんが、どのように、同音異義語を料理するのかが楽しみだ。
……この後、「国語辞典ナイト」がこれまで開発してきた辞書ゲームの紹介とプレイ体験会に続きます!
そちらのレポートは「後編」で、書いてみたいと思います。
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